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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)481号 判決

控訴人 原告 青柳健三 外一名

訴訟代理人 大久保曠

被控訴人 被告 ズノー光学工業株式会社

訴訟代理人 新庄初一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴会社が昭和二九年五月一日を払込期日としてなした、新株式四〇万株の発行はこれを無効とする。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示の通りであるから、ここにこれを引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一号証、第二号証の一、同号証の二の一ないし九、同号証の三ないし七を提出し、原審証人浜野道三郎、矢沢清、小畑忠良、角橋安正の各証言を援用し、乙第五ないし第八号証、第一〇号証は不知、その余の乙号各証は成立を認めると述べ、被控訴代理人は乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第一〇号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

控訴人が本件新株の発行を無効と主張する根拠は、右新株の発行が有効な取締役会の決議を経ていないという点にある。そこで仮に本件新株の発行が有効な取締役会の決議を経ないでせられたものであること控訴人主張の通りであるとして、右新株発行の効力を考えてみよう。

昭和二五年法律第一六七号によつて改正せられた商法(株式会社法)はいわゆる授権資本制を採用し、会社成立後の株式の発行を定款変更の一場合とせず、その発行権限を取締役会に委ねており、なお新株発行の効力発生のためには発行決定株式総数の引受及び払込を必要とせず、払込期日までに引受及び払込のあつた部分だけで有効に新株の発行をなし得るものとしている(第二八〇条の九)のであつて、これらの点から考えると、改正法にあつては、新株の発行は、株式会社の組織に関することとはいえ、むしろこれを会社の業務執行に準ずるものとして取扱つているものと解するのが相当であり、従つていやしくも対外的に会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、右発行につき有効な取締役会の決議がないにしても、右決議の有無は会社内部の意思決定の問題にすぎず、新株の発行自体の効力には影響はなく、右新株の発行は有効なものと解するのが相当である。

そして本件において、本件新株の発行が被控訴会社を代表する権限のある取締役によつてせられたものであることは控訴人も明かに争わないところであるから、右新株の発行は控訴人主張の事由によつて無効となるものでないことは明かであり、その無効宣言を求める控訴人の本訴請求は、控訴人主張事実の有無を問わず、その主張自体理由なきに帰するのであつて、右と同趣旨に出て控訴人の請求を排斥した原判決は相当である。

よつて民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき同法第八九条、第九五条と適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 薄根正男 判事 奥野利一 判事 山下朝一)

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